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航空機を用いた台風の直接観測を実施へ 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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航空機を用いた台風の直接観測を実施へ

名古屋大学宇宙地球環境研究所附属飛翔体観測推進センターは、科学研究費 助成事業(科研費)により、今年度から 5 年間(2016~2020 年度)にわたって、 台風の航空機を用いた直接観測を実施します(研究代表者:坪木和久)。平成 28年度は準備と検査飛行を行い、実際の台風の観測は29年度以降に実施しま す。この研究は琉球大学、気象研究所、台湾の国立台湾大学、台湾中央気象局 と共同で実施します。

台風に伴う暴風と大雨による災害は、風水害の上位のほとんどを占め、現在 でも台風は災害の主要因となっています。また、近年、地球温暖化に伴う台風 リスク の増 大が 懸念 され、 精度 の高 い台 風の強 度推 定と 予測 は喫緊 の課 題で す。しかしながら、台風についてはその予測だけでなく、強度の推定値にも大 きな不確実性が含まれているのが現状です。特に強い台風は誤差が大きいと考 えられます。これは、海上における直接観測のデータがきわめて少ないからで あり、また、台風強度をコントロールするメカニズムに未解明点があるからで す。海上で発生・発達する台風について、これらの問題を解決するためには、 航空機による直接観測が不可欠です。

本研究では、航空機から「ドロップゾンデ」と呼ばれる温度、湿度、気圧、 風向・風速を測定する装置を投下し、台風周辺を観測します。これを名古屋大 学で開発している台風のシミュレーションモデルと組み合わせることで、台風 の強度を精度よく推定し、台風の予測の高精度化を目指します。さらに、名古 屋大学の降水レーダ、雲レーダ、顕微鏡を搭載した気球、およびドローンを用 いて、台風の雲や降水、エアロゾルなどの台風の強度をコントロールする水蒸 気やさまざまな大気中の粒子を観測し、シミュレーションモデルの高度化を図 ります。この研究により台風の強度推定と予測を格段に向上させることで、台 風に伴う暴風や豪雨による災害の軽減に貢献することを目指します。

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航空機を用いた台風の直接観測を実施へ

【概要】

台風は、日本を含む東アジア地域に大きな風水害をもたらします。台風による災害の軽減 や避難の実施のためには、台風の強度を正確に推定し予測に反映させることが不可欠です。 特に近年、地球温暖化に伴う台風リスクの増大が懸念され、精度の高い台風の強度推定と 予測の必要性が高まっています。しかしながら、台風の強度については、その予測だけでな く、 強度の推定 値にも大 きな不確 実性が含 ま れ てい るのが現状 です 。こ れは海上に おけ る 観測データがきわめて少ないからであり、また、台風強度をコントロールするメカニズムに量 的な未解明点があるからです。これらの問題を解決するために、名古屋大学宇宙地球環境 研究所附属飛翔体観測 推進センターは、航空 機を用いた台風の直接 観測を実施します。 航空機から「ドロップゾンデ」と呼ばれる温度、湿度、気圧、風向・風速を測定する装置を投 下し、台風周辺の大気構造を観測します。これを名古屋大学で開発している台風のシミュレ ーションモデルと組み合わせることで、台風の強度を精度よく推定し、台風の予測の高精度 化を目指します。さらに、名古屋大学の降水レーダ、雲レーダ、顕微鏡を搭載した気球、お よびドローンを用いて、台風の雲や降水、エアロゾルなどの台風の強度をコントロールするさ まざまな大気中の粒子を観測し、シミュレーションモデルの高度化を図ります。この研究は今 年度から 5 年間(20162020 年度)に渡って、琉球大学、気象研究所、台湾の国立台湾大 学、台湾中央気象局と共同で実施します。

【ポイント】

 名古屋大学宇宙地球環境研究所附属飛翔体観測推進センターは、今年度から5 年間 (20162020年度)に渡って、航空機を用いた台風の直接観測を実施します。

 観測データを高解像度のシミュレーションモデルに取り込むことで台風の強度と進路の 予測の高精度化を図ります。

 この研究は琉 球大学 、 気象研究所 、台湾の国 立台湾大学 、台湾中央 気象局と共 同で 実施します。

 防災上の大きな問題である台風強度の大きな不確実性(強度の推定値と予測の両方) の問題の解決を図ります。

 航空機観測と同時に雲レーダ、降水レーダ、エアロゾル観測、気球観測、およびドロー ンを用いた観測を実施します。

 この研究により、台風の強度推定と予測を格段に向上させることで、台風に伴う暴風や 豪雨による災害の軽減に貢献することを目指します。

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【背景】

台風に伴う 暴風 と大 雨 による災 害は 、風水 害 の上位のほ とんどを 占 め、 現在 でも台 風は 災害の主要因となっています。201311 月にフィリピンに上陸したスーパー台風ハイエン は、その強風とそれに伴う高潮により、死者七千人を超える大災害をもたらしました。日本に おいても2015年の2つの台風に伴う鬼怒川の氾濫は、記憶に新しいことです。地球温暖化 に伴い台風の強度が増大することは多くの研究が示しており、日本においても台風リスクの 増大が懸念されています。そのような台風リスクの高まりの一方で、台風の強度の推定値に は大きな不確実性があり、また、台風やハリケーンの進路予測は改善されてきていますが、 強度予測の改善は世界の気象予報機関に共通の課題です。

実際、西部北太平洋の台風を監視する米国の合同台風警報センター(JTWC)と日本の気 象庁の台風の強度推定値には、大きな違いがあります。この強度推定値の違いは強い台風 ほど顕著で、最も強い台風では風速にして20m/s近くの差がみられることがあります。この大 きな違いは、台風の強度推定に大きな不確実性が含まれていることを示しています。これは、 現在行われている衛星観測からの強度推定方法の違いや、風速の平均値の取り方の違い などさまざまな理由が考えられます。1987 年に米軍による台風の航空機による台風の直接 観測が終了し、現在は台風を直接観測する手段がないために、気象庁と JTWC でどちらの 推定値がより台風強度の真値に近いのかを判断できないのが実情です。

この台風 強度につ いて の不確実性の 問題を解 決するため には、 航空 機による台風の直 接観測しかありません。しかしながら日本では、8 年前に研究として一時行われた例を除い て、台風の航空機観測は行われていません。

【研究の内容】

本 研究 では 、上 記の 問題を解 決す るた めに 、図 1に 模式 的に示 す ような航 空機を 用いた 台風の直接観測を実施します。西に進む台風が北上に転じることが多く、また、非常に強い 台風に発達することの多い、沖縄本島の南方海上から南西諸島の海域において、航空機か らドロップゾンデを多数投下し、台風の強度推定の高精度化を図ります。ドロップゾンデの投 下は、台風の周辺と台風の予測に最も重要な位置で実施し、観測データを高解像度のシミ ュレーションモデルに取り込むことで台風の強度と進路の予測の高精度化を図ります。この 高解像度の大規模シミュレーションは、名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュー タや、横浜にある海洋研究開発機構の運営するスーパーコンピュータの「地球シミュレータ」 を用いて行いたいと考 えています 。また、 この 観測とともに、台風の強 度をコントロールする 台風内部の構造とプロセスの量的観測を、降水レーダ、雲レーダ、顕微鏡を搭載した気球、 エアロゾル観測、およびドローンなどを用いて実施します。これらの観測に基づき、台風の強 度をコントロールする過程をモデル化し、シミュレーションモデルの高度化を図ります。これら の研究は、琉球大学、気象研究所、台湾の国立台湾大学、台湾中央気象局と共同で実施 します。

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【成果の意義】

航空機を用いた台風の直接観測は、台風強度の推定値と予測の不確実性という防災上の 大きな問題に対するブレークスルーをもたらすものと考えられます。この研究により、日本に おける台風に関する航空機観測の技術開発と高度化が行われます。台風の航空機観測と 高解像度のシミュレーシ ョンモデルを組み合わせることで、台風の強度 と進路の予測がより 高精度になります。

将来、スーパー台風ハイエンのような非常に強い台風の上陸が予想されたとき、数 10 万 人という大規模な避難が必要になります。その大きなコストのかかる大規模避難に見合う台 風の高精度の強度推定とそれに基づく予測(強度と進路)に寄与する成果が得られます。ま た、地球温暖化に伴う台風の変化を推定する上で必要な精度のデータを得ることができるよ うなります。この研究は、将来に渡る長期的な台風の航空機観測への大きな第 1 ステップと なり、強度・進路の予測精度向上により、台風災害の軽減に大きく貢献します。

【用語説明】 台風:

気象庁の定義では、西部北太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ 海に存在し、最大地上風速(10 分間平均)がおよそ 17m/s34 ノット)以上の熱帯低気圧 を「台風」という。

スーパー台風:

米国合同台風警報センター(JTWC)の使用する、西部北太平洋に発生する熱帯低気圧 の最強のカテゴリー。地上10m1分平均最大風速が130ノット(66.9 m/s) 以上の熱帯 低気圧。英語では supertyphoon という。気象庁の「猛烈な台風」より強く、ハリケーンのカ テゴリー5 に概ね相当する。ちなみに JTWC のその一つ下のカテゴリーは typhoon であ る。

ドロップゾンデ:

航空機を用いて上空から投下する観測装置で、各高度の気温、湿度、及び気圧を測定 する。また位置の情報から各高度の風向・風速が測定される。

台風の強度:

通 常 、 台 風中 心の 地 上気 圧 、 ま たは 地上 の 最大 風 速 で表 さ れ る 。 最大 風 速の 場 合 、 日 本を含む多くの国は10分平均値を用いるのに対して、米国は1分平均値を用いることに 注意。一般に10分平均値の方が1分平均値より小さく、1分平均値に0.88(または0.93) をかけて、便宜的に10分平均値に変換することが行われる。

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シミュレーションモデル:

気象の物理法則を数式化したものを、コンピュータを用いて数値的に解くアプリケーショ ンソフトウエア。観測値を初期値・境界値として与え、気象の時間発展を計算する。未来 の気象をシミュレーションする場合は、予報モデルと呼ばれる。現在の気象予測はすべて これによって行われている。

ドローン:

遠隔操作可 能な自 律式 のマル チコプターの こと 。地表 面に近 い大気を 観測する 上では 最も有力な飛翔体である。ただし、現状のドローンは強風に弱いので、台風の周辺域で のみ観測を行う。また、強風下におけるドローンの制御技術の開発も本研究課題の一部 である。

【図1】

図1.航空機による台風の観測の模式図。沖縄の南方海上や南西諸島付近で転向する台風に ついて、那覇や鹿児島からジェット機を飛ばし、台風周辺にドロップゾンデを投下する。図 中の台風周辺の実線は那覇からの飛行経路、丸印は航空機からのドロップゾンデの投下地点 を表す。

参照

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